ギュッと砂を握りしめた彼

 

 この間、Tくんにケーキを買って帰ってもらった。地域専用の商品券の使用期限がもうすぐだったから。この商品券、昨年度末に市の委員会の機関紙の投稿企画に掲載されて、もらった賞なんだ。

 母や前回の思い出のOさんのように、スラスラと作文を書くのは苦手だけれど、書きたいことがありさえすれば、文を書くこと自体は嫌いなわけじゃないんだと思う。だから、こうやってはちべえブログも綴っているんだけど、そのおかげで文章力が鍛えられているのかもしれない。

 小学校での作文の書き方の指導は無いに等しかったけど、一つだけ残っていることがある。それは、クラス対抗で行われた球技大会の感想文を書いた時のことだ。後で、先生がクラスのある男の子が書いた作文をみんなに読んで聞かせてくれたんだ。

「ぼくは、グラウンドのすなをギュッとにぎりしめた。」

 その球技大会で、負けた時のことだ。「くやしい」という言葉は使われていないのに、その気持ちが伝わってくるでしょう、と先生は言った。

 ギュッと砂を握りしめた彼は、クラスでも勉強が良くできるいわゆる優等生のタイプではなくて、元気すぎてよく先生に叱られるような子だったから、彼の作文が読まれたことに私は密かに驚いていた。そして、その表現力にも。このことは、ずっと私の中に残っていて、何か文を書くときはいつも考えるんだ。他の言い方では、伝えられないか、と。