ブルーベリーの季節

 


 ブルーベリーの季節だ。7月の初めは2、3日にいっぺんの収穫でも間に合ったのに、この頃は数日サボるとザルいっぱいだ。
「手で優しく触ってポロっと取れるのが、食べごろのブルーベリーなんですって」と、Aさんに教えていただいたのは10年前。最初は数えられるほどの量だったから、そんな風に丁寧に収穫していたけれど、今はそんな余裕なし。ガンガン摘んで、ザルに放り込んでいるから、まだ熟れていなくて赤っぽいのも混じってしまう。
 収穫したブルーベリーは、少し塩を入れた水で洗ってから冷凍庫に入れる。ジャムにするほか、マフィンなどの焼き菓子にするのが定番だったが、「うちはスムージーにして毎日飲んでるよ」というTちゃんに倣って、昨年からレパートリーに加わった。これが夏の朝には最高なんだ。

 生のブルーベリーが自分ちで採れるだなんて、ブルーベリーの存在を知った頃は夢にも思っていなかった。人生初のブルーベリーは、母のバッグに入っていたロッテのブルーベリーガム。それまでに嗅いだことのない強烈な香りは、香水のようにも感じられた。実際、母の香水と記憶が混じり合っているのかもしれないけれど。
 特別好きなわけじゃなかったのに、遠足や何かのイベントおやつによく入っていたガム。多分、母のお気に入りだったんじゃないかなあ。その後、ブルーベリージャムも朝食によく登場するようになった。

 そんな風に、ブルーベリーとは加工食品としてお付き合いしていたところ、一人暮らしをしていたアパートに、ある日、タッパーに入ったブルーベリージャムが届いたんだ。
「庭のブルーベリーが実をつけました。ジャムを作ったので食べてください。」
 わあ!八兵衛の小学校の卒業記念に、植えたブルーベリー、ついに実をつけたんだ!貴重なそれを、父がジャムにして送ってくれたのだ。

 うちの庭で採れたブルーベリーのジャムは、ザラッとしていて、やさしい味がした。実家から遠く離れたアパートの一室で、洋と和、半々に造られたあの庭に注ぐ陽の光を想い浮かべながら、一口一口、食べたんだ。

 ブルーベリーの実がなって、八兵衛は喜んだだろうなあ。八兵衛のブルーベリーの樹だもんなあ。そりゃあもう、そりゃあもう、夢中になって摘んだんだろうなあ。