自転車のベル

 

11月だというのに汗ばむような日の昼下がり、バス停までの道を急いで歩いていると、後ろの方からおじさんの声。

「ちょっと、すみませーん。横を通ってもいいですかー」
自転車に乗っている人が後ろから来て、そう言いながら、私を追い越して行った。
うん、やっぱり、こういうのいいな。そう思ったから、足を止めてガサゴソとiPhoneを取り出して自転車の人の写真を撮った。もう遠くに行って豆粒になってしまったけれど。

この間、実家に帰った時に3人で飲みに出かけた。駅近くのお店まで歩いて行ったんだけど、3人で信号待ちしていたら、ベルの音。
「チーン、チーン」
すぐ後ろに自転車に乗った人がベルを鳴らしていた。膨れっ面で。そう、両親が通行の邪魔になっていたんだ。
慌てて「自転車が通るよ、あぶないよー」と教えて、両親によけてもらい、自転車はすうっと行ってしまったんだけど、私、なんだか、いやーな気持ちになったんだ。

ねえ、口があるんだもん。声で、言葉で、伝えようよ。

ベルだけじゃなくて、あのおじさんみたいに声をかけてくれていたら、全然印象は違っていただろうなと思った。

元々知らない人と話すのは苦手で、なるべく話さずに用を足したいと思うタイプの私。知らない人に声をかけるのは、「すみません」でさえ、ちょっと勇気のいることだ。

でも、声を出すことで、いや声に出せなくてもいいから、表情とか身振りだけでもいいから、コミュニケーションから逃げないことで、明るい道が開けるんだ。そんなことを、教えてもらった。