生まれて初めて作った料理

 

 久しぶりに実家に帰って、両親の行きつけの居酒屋へ行った。「本日のおすすめ」でひと目見て気になったやつを父が(心を読んで!)注文してくれた。「水茄子の刺身」

 水茄子っていうナスがあるんだよ、と父。ナスをアク抜きする時に水に浸すから、そう言ってるのだとばかり思っていたが、水茄子って水分が多くて皮が薄くアクの少ない高級ナスがあるらしい。
運ばれてきたお皿から、ふわっと瑞々しい茄子の香りがした。シャクシャク、あまーい!
この茄子で思い出すのは、私の人生で初めての料理「茄子の塩揉み」のことだ。

 通っていた幼稚園では、その年、ナスを育てていた。そして、ある日、そのナスを収穫。みんなで料理することになった。その時教えてもらったのが「茄子の塩揉み」。ナスを拍子木切りして、塩揉みし、さっと洗って、絞って、ちょっとお醤油をたらして、できあがり。簡単だ。

 幼稚園生、生まれて初めて自分で作った料理の美味しさに感動した。それで、その日帰ったおばあちゃんの家で、もう一度作ったんだ。どうしても、おばあちゃんに食べさせたくて。

 幼稚園からナスを持ち帰ることができたのか、おばあちゃんの家にあったナスを使ったのか、そこは全く記憶が無いんだけど、おばあちゃんに見てもらいながら、茄子の塩揉み、再現したんだ。これまた、とっても美味しくできた。この体験で、「茄子の塩揉み」が最初の料理レパートリーとなった。ハチベエにも何度も作ってあげた。

 それからもう何十年も後、おばあちゃんが、ずうっと歳をとってからのこと。一緒にキッチンに立って、ナスを切っていたら、ふと、
「ねえ、あの時の茄子の美味しかったこと!あれは、ほんっとうに美味しかったねえ。」って。
うん、本当に美味しかったね。
2人で同じ記憶を重ね合えたことで、嬉しくて、嬉しくて、2人でたくさん笑った。

 おばあちゃんにも、覚えてもらえてたんだ。
「茄子の塩揉み」の記憶は震えた。