トマトにお砂糖

 

 もう1ヶ月近く前の話だ。職場でプチトマトをたくさんいただいたので、この夏全開のお日さまパワーを活かさん!と、2Fデッキで干してセミドライトマトを作った。

なんでもこのプチトマトは90歳を過ぎたおばあさまが作った物だということで、お日さまパワーのみならず元気印がピカピカだ。

 セミドライトマトはトマトを半分に切って、塩をパラパラ、それを網に並べて干すだけだ。トマトはそのままでも美味しいけれど、干すと旨味が増すので、刻んで料理に使うと美味しさ倍増、使い勝手がいい。

 こんなふうに、干したり、カレーに入れたりすることもあるけど、やっぱりトマトは生で切って食べるのが一番多い。何も味付けせずにそのまま食べるのも結構好きだけど、何かかけるとしたら、塩とか、マヨネーズとか、ドレッシングとか、塩味のものが私の中では普通だ。そのトマトにお砂糖をかけて食べることがあるというのを知ったのは、小学校の5年生ぐらいだったと思う。

 父に買ってもらった澤地久恵さんの本、本の題名は忘れてしまったけれど、その中にトマトの話があった。子どもの頃の久恵さん、トマトが夏のおやつだったんだって。

------トマトを丸ごと1つ。ヘタのところをくり抜いて、そこにお砂糖を埋め込んで、トマトを持って遊びに行く。外側からかじって食べ進めていくと、どんどん甘くなっていくんだけど、トマトの汁とお砂糖で手も口もベタベタになる、でもすごくそれが美味しかったって、そんな話だった。

真っ黒なオカッパ頭のやせっぽっちの少女が、かじりかけのトマトを持って、手をベタベタにして、日に焼けた顔に映える白い歯を見せてガハハと笑っている様子が今も目に浮かぶ。って、会ったこともないのにね。しかも戦時中のお話だ。でもなぜか、その久恵さんは古い友達のように、私の頭の中に住んでいるんだ。
恐るべし、小説家の力。

 それにしてもトマトにお砂糖だなんて、気持ちが悪い!と思う一方で、久恵さんがすごく美味しそうにトマトを食べるものだから、同じようにトマトを食べてみたいという気持ちもうっすらとあった。それが半分実現したのは、ある夏イトコのN美ちゃんとトマトを食べたときだった。

 N美ちゃんはトマトを丸ごとではなく、食べやすく一口大にカットしてガラスの器に入れた。そして慣れた様子でお砂糖をかけたんだ。「こうして食べると美味しいって、パパに教えてもらったの」

恐る恐る口にした砂糖がけのトマトは、酸味が抑えられて食べやすくフルーツのようだった。

 確かに美味しかったんだけれど、あれから1度もトマトにお砂糖をかけて食べたことはない。トマトジャムやトマトゼリーやトマトケーキは食べることがあっても。

でも、丸々としたトマトを見ると、澤地久恵さんのお話と「こうして食べるんだよ」と娘に教えたK伯父ちゃんのことを思い出すんだ。