掃除嫌いの呪いを解く

 

キレイ好きのJさん いつも羽繕い

 ずっと掃除が苦手で、嫌いだった。そう思っていた。だけど、会社に入って、私に優しく根気強く色々なことを教えてくれたM先輩が、その呪いを解いてくれた。

 ある時、M先輩と一緒に掃除をした。掃除の後、先輩は雑巾を洗い始めた。石鹸を使って、丁寧に。雑巾はもはや雑巾の様相を示してはおらず、まるで布巾のように見えた。そう、台布巾だ。それを先輩は、漂白剤を入れたバケツに浸した。ダメ押しだ。これでお皿だって拭けるくらい清潔になるに違いない。ほほーうっと見ている私に、M先輩、
「汚いと、触りたくなくなるでしょう。雑巾みたいなものほど、キレイにするのよ。」って。

 M先輩は、毎朝会社に来たら、私たちの部署の電話の受話器をいつも拭いていた。さっさっさーと数分で終わる作業だ。受話器は見た目には全く汚れてはいないのに、毎朝。
「毎日拭いているから、うちの部の電話はキレイでしょう。汚くなると、触りたくなくなるからね。キレイなうちに、拭いておくのよ。」

 M先輩の掃除は「汚れる前にする」もの。
汚れているものを、キレイにするのが掃除だと思っていたけど、違うんだ。
へえ!
私が掃除の何を嫌いだと思っていたのか、謎がスルスルと解けて行った。

 そう、私も汚いものを触るのが嫌だったのだ。
小学校の掃除の時間も、ジメジメしたニオイを放っている古びた雑巾を触るのが、嫌で嫌でしょうがなかった。
そして、掃除をする場所は汚れているのがふつうだ。だから掃除には、時間がかかる。でも、がんばればキレイになる。我慢してがんばろう!
掃除って、そういう修行みたいなものだという思い込みがあった。

 それで、掃除が苦手で、嫌いだったんだ。

 それがわかって、スッキリした。私は「掃除嫌い」じゃない。「汚いもの嫌い」なんだ。
だから、M先輩のように「汚れる前に」少しの作業を頻繁にするようにした。
もちろん、雑巾こそ、キレイに。
そして、どうしても汚れてしまった場所を掃除するときは、手袋をつけるようにした。
それで、ずいぶん掃除が苦じゃなくなったんだ。

 ある時、大学で学生さんと一緒に掃除をした。掃除の後、石鹸を使ってゴシゴシ雑巾を洗っている私に「雑巾なのに、そこまでやるんですね。」って、学生さん。

「汚いと、触りたくなくなるでしょう。…」って、私。

 私も、彼女の呪いを解いてあげられただろうか。