犬も歩けば

 

 今日もまた車が止まってくれた。横断歩道を渡ろうとして、左を見て右を見て、また左を見て…と、しているうちに。

 親切な運転手さんに出会えたことに感激しながら、「わあ、いいんですか。ありがとうございます。」と小さいけど声に出して言いながら、ぴょこりと頭を下げて、小走りに道を渡る。最近、こんなことが多くなった気がする。この小さな町に引っ越して来たばかりの頃は、そんなことなかった。青信号を渡ろうとして轢かれそうになったことがあったほど、運転マナーの悪いところ、という印象だった。歩行者の少ない田舎だから、そういう傾向があるのかもね。今もやっぱり車がイチバン!ビュンビュン風を切って、我が物顔に走ってることが多いかもしれない。

 20年くらい前、カナダに行って驚いたのは歩行者の強さ?だった。というか、逆に、歩行者のマナーが悪すぎ。車が向こうからやって来ている!というのに、歩行者は平気で道を渡るんだ。「え!?今、車来てるよ?!危ない!」とこっちは足がすくむんだけど、どんな車も直前で必ず減速、止まって、歩行者が道を渡り終わるのを待ってくれる。これが横断歩道じゃなくても、どんなに変なところを渡ろうとしても、車が走って来ている直前でも、必ず歩行者優先で渡らせてくれる。それをいいことに、どこからでもヒョイと渡ろうとするマナーの悪い歩行者には呆れたけど、このカナダの車が「強いものが弱いものに優しくするんだよ」って、教えてくれた。

 そんな優しい車がこの町にも増えて来たんだね。朝の一瞬の出来事が、ふわりと幸せを運んでくれる。ふわり、ふわり、バス停まで歩く足取りも軽やかになった。ほら、歩けば、幸せに出会えるんだ。犬も歩けば棒に当たる、だ。

 あれ?「犬も歩けば棒に当たる」って、逆の意味だったっけ。母の愛読書『広辞苑』はウチには無いので、中学生の時から使っている『三省堂国語辞典』を引いてみた。

    思いがけない災難に遭うことのたとえ。(幸運に出会うことのたとえにも)

あら、どちらも一応正解なんだね。