2.5分の魂

 

 その子は小松菜の中にいたんだろう。小松菜についた土を洗い流した後に、シンクのゴミ受けにへばりついていた。もうダメかなあとのぞき込むと、生きてるよ!と動いてみせた。そうか、生きてたか、ちょっと困った私、コミュニケーション取っちゃったら、何とかするしかない。それで、1枚残した小松菜にその子をのせて、プチトマトが入っていたプラケースに穴を空けたのの中に入ってもらった。最初はじっとしていたけど、小松菜をパクパク食べて、pooもコロコロとして、元気そうだった。コロナ生活で蝶々の幼虫の保護と羽化に目覚めたCセンパイ風に「青ムッちゃん」という名前を付けて、私も久しぶりにモンシロチョウの羽化が見られるかもとワクワクしていた。

 ところが翌朝、青ムッちゃんの様子がおかしい。顔が黒くなっていて、pooも変だ。青ムッちゃんの部屋には小さなゴミのような食べかすのようなものが散らかっていて、荒れている。不穏な空気。病気かも、とションボリしながら、新しい小松菜に換えて、プラケースを閉じた。いや、脱皮の可能性もある?と少し希望を持ちながら、そっとしておいた。

 そして翌日、その微かな希望は打ち砕かれ、青ムッちゃんは前よりもっと縮んでいて、表面もカサカサしているようで、明らかに命は風前の灯火だった。だから、最後に祈りの言葉を聞かせて、サヨナラしようと私は青ムッちゃんを隣に置いて祈った。

 すると、なんてこと!青ムッちゃんが動き出したのだ。本当に。もうビックリだ!ちょっと動く、とかではなくて、プラケースの中を動き回った。すごい。祈りの言葉は蘇生の言葉だ。本当なんだ!青ムッちゃんに教えられるとは!と驚いて、なんだか楽しくなってきて、弾むように祈り続けた。

 青ムッちゃんは、きっとこれから蛹になるのかも。だから、これまでじっとして体力を温存していたんだ。それで、今から鶴の恩返しみたいに、誰も見ていない時にこっそり蛹になるんだ。とちょっとワクワクしながら、またそっとしておいた。

 しかし、青ムッちゃんは蛹にならなかった。ますます小さくなったように見えて、もう命は燃え尽きたかのように見えた。それが、不思議と、祈りの言葉を聞くと、少し動いてみせるんだ。もう楽にしてあげたほうがいいのかもしれないとも思ったけれど、ここまで来たら、お見送りするのが私の役目だと決めた。

 青ムッちゃんとの日々は1週間だった。また同じ畑で採れた小松菜をYさんが届けてくれたので、柔らかそうな葉っぱを1枚。小さな小さな青ムッちゃんをくるんで、玄関前のハナミズキの下に寝かせた。いろいろ教えてくれたね、ありがとう。

 これからハナミズキもただの「ハナミズキ」ではなく、「青ムッちゃんのハナミズキ」となる。星の王子さまのようなことを考えながら、2階の窓から見えるハナミズキの頭をぼんやりと眺めた。