雀の食べた洗濯のり

 

 ご飯は文化鍋で炊いている。1度に炊くのは2合だけだから、小さいお鍋だ。ザルにお米を入れて、デンマークだかスウェーデンだかの黒い万能かき混ぜ棒(?)でジャジャっとお米を研ぐ。ズボラ極まりないね。2合のお米を鍋に入れたら、鍋ごと電子測りにのせて、415グラムの水を入れる。しばらくおいて吸水させておけば、炊くのはスグだ。ガス台にのせて、沸騰するまでは強火、沸騰したら弱火にしてタイマー5分。タイマーが鳴ったら火を止めて、10分くらい放置して出来上がり!

 この文化鍋が家に来るまでは、ずっと炊飯器で炊いていたんだ。18で大学に入って一人暮らしを始める時に買ってもらった小さな炊飯器。写真があるはずなんだけど、見つからず残念。HITACHIと書いてあって、スイッチがまん丸で、小さくてかわいいお気に入りの炊飯器だった。この子がずーっと、ごはんを炊いてくれていたんだけど、ついに電源コードの接続が不安定になって来て、危ないからサヨナラした方がいいね、ということになり、泣く泣く、それに代わる炊飯器を探した。でも、彼女(?)を上回る炊飯器に出会えなかった。時代は変わっており、小さそうに見えてもマイコン分の奥行きがしっかりあって、シンプルで小さい炊飯器は見つからなかった。

 じゃあ、鍋で炊く?と言っても、それも嫌だった。その頃、家には小さいル・クルーゼ鍋があったんだけど、ル・クルーゼ鍋でご飯を炊くのはあまり好きじゃなかった。沸騰してから弱火にしても少しずつシュンシュンと吹きこぼれてくるからだ。

 それで困って、色々と調べている中で、見つけたのがこの文化鍋だ。

 文化鍋は吹きこぼれないように、工夫されている。鍋の縁のところが鍋蓋よりひと回り大きくなっていて、シュンシュン言う吹きこぼれを受け止めてくれるんだ。その吹きこぼれが糊のような役目をするのか、蓋と鍋はしっかり密着して、ル・クルーゼと大違いの軽い鍋なのに、とても美味しくご飯が炊き上がるんだ。すごく気に入っているから、色々な人に勧めるけど、やっぱりタイマーが無いとね、とか皆それぞれのこだわりポイントがあるので、文化鍋仲間はあまり増えていない。

 その文化鍋を洗いながら、洗濯のりのことを思い出した。

 『舌切り雀』という昔話。うう、恐ろしいタイトルだ。これに出てくる雀は、恐い恐いお婆さんの洗濯のりを食べたせいで、舌を切られてしまう。のりを食べる?どういうこと?絵からその「のり」は「海苔」ではないことは明らかだった。でも「海苔」じゃない「のり」って、幼稚園の工作の時間に使うやつしか知らなかったから、不思議でしょうがなかった。雀が我慢できないほど、のりって美味しいものかしら?だいたいお洗濯にのりを使うことってあるかしら?と幼稚園生は思った。それで、おばあちゃんに聞いたんだ。

 おばあちゃんは、洗濯にのりを使うことがあること、そして、その糊はお米から作るから、お米の好きな雀にはとても美味しく感じたんだろうと説明してくれた。それを聞いたら、幼稚園生、今度はその糊が気になってしょうがない。お米で作るって?食べられるのり?雀が美味しくて美味しくて食べるのを止められなかった洗濯のり、それを食べてみたくなったんだ。「どんなのかなあ、おいしいのかなあ、食べてみたいなあ」きっと、ずうっと言ってたんじゃないかしら。

 それで、おばあちゃんは洗濯のりを作ってくれたんだ。孫娘が味見をするための洗濯のりを。

 どうやって作ったのか、それは全然覚えていない。けど、木ベラで【のり】を混ぜてる様子がうっすらと記憶にある。出来立ての洗濯のりをスプーンで一口。それは温かくて、ほんのり甘くて、美味しかった。雀の気持ちになって、パクパク食べた。おばあちゃんは舌を切ったりなんかせずに、ただただ笑い転げた。