レタスの食べ方

 

 テレビをつけたら、和食の料理人、笠原将弘さんが出ていた。NHKのザ・ヒューマンという番組だ。笠原将弘さんと言えば、「賛否両論」というお店の、美味しそうなレシピ本をたくさん出している人、ぐらいの認識だった。久しぶりにテレビで見た笠原さんの顔つきは、10年以上前に同じくテレビで見たそれとは違って見えた。歳をとったとかそういうことではなく。

 笠原さんは、奥さんを亡くしていた。3人の子どもたちはまだ小さかったという。テレビにはもう大きくなった末っ子の長男さんにお弁当を作る様子が映し出されていた。あらたまって伝えたことはないけど、感謝しかありません、と、奥でお弁当を作る父親を少し気にしながら、高校生の彼はカメラに向かって打ち明けた。

 「賛否両論」は予約の取れない人気のお店だ。新作メニューの開発に取り組む姿や、お客さんに喜んでもらうことに徹して考え尽くされた料理が出される様子に目を奪われる一方で、ご両親と奥さんの遺影の前の十字架に祈る笠原さんの横顔が目に沁みた。

 笠原さんは、若い料理人を育てることにも力を尽くしている。お店にも多くのスタッフがいて、笠原さんから日々学んでいるようだった。面白かったのが食材コンペ。その日のお題は「レタス」で、それぞれがアイディア溢れるレタスの料理を出していた。最後にオーナーの笠原さんが結果発表するんだけど、その前に、ちゃんとレクチャーをしてくれるんだ。

 笠原さんが料理を考えるときにベースとなることの1つが「その食材の特徴を考えること、そして足りない物があれば補うこと。」なんだって。

 レタスは味はほとんど無くて、ほろ苦さ少しとシャキシャキ食感。だから、これに塩分、甘味、酸味、香り、油分を足していく…と言いながら、笠原さんは千切っただけのレタスに塩や砂糖、レモン汁、ミントなど、混ぜていく。そして、最後にチーズを、和食じゃないんだけど…と言いながらおろし入れた。かくしてレタスサラダの完成。それを食べたお弟子さん、思わず「おいしい〜!」とうなっていた。

 このレタスコンペで思い出したのは、Bちゃんに教わったレタス料理だ。大学生になって、一人暮らしをするようになって間もない頃のことだ。「レタスってね、私、あまり好きじゃなかったんだけど…」そう言いながらレタスをちぎるBちゃん。「こうしたら、いっぱい食べられるのよ。しかも結構おいしい。そして簡単なの。」千切られた山盛りのレタスは熱いごま油で炒められ、あっという間にお皿に盛られて、クルッと醤油がかけられた。これを食べた私、思わず「おいしい〜!」とうなっていた。

 うん、たしかに、Bちゃんのこのレタス料理、笠原先生のレクチャーのとおりになっている。