熊さんの葡萄の手

 

 A子ちゃんのお母様から、今年も立派な葡萄が届いた。ニューピオーネと安芸クイーンとシャインマスカットの3種類だ。どれも、それぞれ風味が違って、甘くてジューシーでとても美味しい。こんな大粒の葡萄は、うちでは一気に皮と種を除いて器に盛って、スプーンでパクパクいただく。皮を剥いたり、種を取ったり、面倒臭そうだけれど、意外とそうでもない。

 まず一粒をお気に入りのビクトリノックスのトマトナイフで半分にカット。(このトマトナイフ、軽くて、切れ味がよくて、しかも安い。オススメ!)種があったら、小さいスプーン(0.1グラムの計量スプーンがちょうどいい)でピッとくり抜き、皮側からキュッと実を押し出す。実はぴょこんと簡単に出てくれるので、気持ちがいい。シャインマスカットだけは、皮が薄いから、ちゃんとナイフを使って剥かないといけない。まあ、剥く必要がないほど薄いっていうことなんだけど、Tくんが皮がない方が好きそうなので、剥いている。

 小さい頃、おやつのデラウェアを食べ終わった後、残った山盛りの葡萄の皮を握りしめて、手に葡萄の果汁を染み込ませようとしたことがある。なんでそんな汚らしい、変なことをしたかって、冬眠前の熊さんの真似だったんだ。

 冬眠前の熊さんのお話を読んだのは、たしか『ひろすけ童話』だったと思う。熊さんは、冬眠前の準備で、色々たくさん食べておくんだけど、その時、大好きな葡萄があったら、手にしっかり塗りつけておくんだ。熊さんは、冬眠中にふと目が覚めることがある。そんな時、手をペロっと舐めるんだって。葡萄を塗りつけておいた手は、キャラメルみたいな、なんとも言えない味がして、それで熊さんは安心してまた眠りにつけるんだって。

 熊さんの言う味を体験したくて、私、冬眠はしなかったけど、しばらくして乾いた手をペロッとした。熊さんの気持ちになれた気がした。

 器の葡萄をスプーンですくって、パクパク平らげた後には、果汁が残る。Tくんはそれをグイッと飲み干す。私は、というと、手に塗りつけるのはもうやめて、文鳥のJさんにお福分けだ。Jさんは文鳥らしからず、どんなフルーツを見ても知らんぷり。だから、雛の頃使っていた給餌器「育て親」の先っちょにちょっぴり果汁を含ませて、Jさんに見せる。ちゅうちゅうちゅう、と飲んでくれるJさん。ね、葡萄、おいしいでしょう。おいしいね、おいしいね。葡萄の幸せがひろがる。