桃の「も」

 


 桃農家のKさんから、今年も桃をいただいた。「熟れすぎているから、今晩か明日の朝には食べてね」とKさん。いつもの朝ごはんに、瑞々しい桃が加わった。

 Kさんは、「今年は収穫直前に雨が降って、それでグンと一回り大きくなったから、なんだか味がぼやけちゃったみたい」と言っていたけれど、1年ぶりに食べる桃は芳しく、一口とろりと食べるごとに、身体の隅々に桃の果汁が染み渡っていくようで、蒸し暑さにまだ慣れずにいる体に生気をみなぎらせてくれた。桃の魔法だ。まさに若返りの果実。

 桃って結構人気がある果物なんじゃないだろうか。普段、果物に表立って関心を示さないTくんも、桃には何かしらの反応がある。八兵衛ももちろん、大好きだった。

 桃を食べるといつも思い出すのは、Kおじちゃん夫妻が持ってきてくれた桃のことだ。脳天をつく美味しさ、ああ、こんなに美味しいもの、食べたことがない、いくらでも食べられる、と思った。これまで、あれ以上の桃には出会ったことがない。きっと今後も出会うことはないんだろうな、こういう記憶には、決して勝てないものだから。それにしても、一体、どこの桃だったんだろう。多分、旅行のお土産だったんじゃないかと思うんだけど。

 あんまり美味しいものだから、八兵衛と私は種をとっておいて、増やせばいいと考えた。でも大人たちに「桃栗3年」と聞いて、ええ?3年?3年も待てない!と思ったのだった。そりゃあ、ジャックと豆の木のようにはいかないよ。でも、あの頃は、3年「も」って思ったんだな。

 マスク生活3年目の夏、桃食べて若返ろう。