木いちごは光る

 


 日曜日は自治会の環境美化活動の日で、朝から地域の草刈りや側溝掃除をした。みんなで一斉にするのは2019年以来だ。空き地の笹薮に、今年も木苺がなっているのを見つけた。前に近所のUさん(だったと思う)が「ほら、木苺だよ!」と言うなり、取って口に放り込んでいたから、きっと木苺なんだろう。

 「木苺」という言葉に最初に出会ったのは『たろとなーちゃん』だったと思う。大好きな絵本で、それはもう、何度も何度も読んでもらった。こぐまのたろと、うさぎのなーちゃんが木苺を摘みに行く。木苺、どんな味がするんだろう。お店で買うのでも、畑で採るのでもない、野に「摘みに行く」苺のことが、ずっと気になっていた。

 そうして、ついに本物の木苺に出会えたのは、小学校も高学年になってからだ。八兵衛が、学校の帰りに、「秘密の場所」に案内してくれた。まさに、写真のような藪の中にキラリと光る木苺。その時のは、こんなに赤くなくて、もっと薄くて、オレンジっぽかった。「木苺だよ。食べられるんだよ。」と言うなり、八兵衛は取って口に放り込んだ。洗わないで食べたりなんかして、大丈夫かしらと、ざわざわしていたのに、気がつくと八兵衛に続いていた。そうして食べた木苺は、大して甘くもなく、特別美味しいというわけじゃなかったと思うのに、すごいね、すごいね、と笑い合ったんだ。

 大学3年の時、フィールドワークのガイダンスで、T山を歩いていた時にも木苺に出会った。地質学について熱く語りながら歩いていたO教授が、不意に、「あ!オヤツだ!」と言うなり、何かを口に放り込んだ。日に焼けた強面のO教授は笑顔で、ごつごつの大きな手には、やっぱり、ビーズ細工のような木苺が光っていた。

 この日曜日も、木苺はキラキラと光っていた。そしてあの日、八兵衛と、O教授は、笑っていた。