八兵衛のお姉ちゃん

 妹は八兵衛だった。八兵衛は水戸黄門に出てくる美味しいものに目がないキャラ。食いしん坊の妹を父がからかってそう呼んだ。家族は「さすが八兵衛だ」「八兵衛にはかなわない」などと面白がっていたけど、妹は不服そうだった。

お姉ちゃんの私の方は何も言われはしなかったけど、私、食べ物にまつわる記憶は妙に覚えているのだ。やっぱり八兵衛のお姉ちゃんだからかな。

特別自分に昔のことを覚えていられる力があるとは思わない。多分、食べ物に関する体験を繰り返し誰かに語る場があり、その話を聞いてくれる誰かに恵まれたということなんだろう。幸せなことだ。そして、話したかったことはいつも食べ物のことばかりだったんだな。やっぱり八兵衛のお姉ちゃんだ。

せっかくなので、どこかに書いておいたらいいかもと、ずっと思っていたんだ。